語学学校の初日はオリエンテーションに始まりオリエンテーションに終わる。
ぼくのように「さっさと授業したい」とか思ってはいけない。
初日のオリエンテーションは英語レベルチェック・滞在時に必要な書類・治安情報の伝授はもちろん、セブで頻繁に目撃される「史上最も多く人類を殺してきた」あの恐怖の生物の回避法も教えてくれるので、絶対に聞き漏らしてはいけないのだ。
目次
語学学校の朝ごはん
目覚めよ……
朝、7時半。
強烈な朝の光によって起床。
ぼくが泊まることになった3人部屋は日当たりが大変よく、カーテンなどという軟弱な遮光装置は存在しない。
そのため、7時過ぎになれば自動的に目を覚ませる。
日本では雨戸と窓とカーテンを閉め切り暗闇の中で寝ていたので、この人間らしい目覚まし時計に痛く感銘を受けた。
この辺りから何となく「フィリピンって南国っぽいな」と思い始めた。
朝ごはんは大事!
朝食をとりに階下へ向かう。
1階は食堂兼談話室といったような処で、南国らしい木材オンリーで作られた素朴な椅子や机が風情を醸す。
本日のメニューは目玉焼きやパンケーキといった王道のディッシュに加え、フルーツはこれも南国らしいマンゴー。
ちなみにマンゴーは毎日の朝食についてくるので存分に南国気分に浸れる。
なお料理は全体的に何となく甘い味付けになっているが、この程度で「甘い」とか言ってはいけない。
フィリピン人の好む味付けは我々日本人からするとめちゃくちゃ甘い。
NILS寮の食事はかなり日本人好みの味付けになっているので、これでもかなり甘さ控えめである。
「外食でバーベキュー食べたら全ての肉が甘かった」「ぜんぶ砂糖味がする」といった話は滞在中幾度も聞くことになった。
根っからの辛党の方には少々きつい生活になるかもしれない。
頑張ろう。
ひたすらオリエンテーション
8時。
ぼくと同じく今週入学した同期8人はある一室に集められた。
この日は終日、NILS日本人スタッフの方によるオリエンテーションだった。
まず最初に行ったのは、現時点での英語力チェックである。
簡単な文法テスト、スタッフの方とのスピーキングテストなどが主である。
「いきなり英語を話すテストがあるのか」と腰が引けたが、本当に簡単な英語の質問に答えればいいだけなので、それほど苦ではない。
続いて必要書類を提出する。
日本国籍の人がフィリピンに31日以上滞在する場合はビザの手続きが必要となるが、書類に記入して代金を渡せばNILSが煩雑な手続きを代行してくれる。
怠惰なぼくにとっては実にありがたい。
また、フィリピンでの短期留学においては必ずSSP(Special Study Permit)と呼ばれる「特別勉強許可証」が必要になるが、こちらも既定の書類を提出することでNILSが代わりに申請・取得してくれる。
代行なしで発行する場合、自ら申請所に赴きフィリピン法務省管轄の移民局に発行してもらうという凄まじい離れ業が必要になるので、「とにかくNILSに言われた通り書類書いとけば万事OK」というこのシステムは非常にありがたい。
これらの書類・代金は渡航前に準備するようNILSが指示してくれる。
NILSに資料請求したら「準備するもの・必要書類」のページをしっかり確認し、日本を発つ前に提出書類の準備を終えておきたい。
ほとんどのフィリピン語学学校では、こうしためんどうな手続きはすべて学校が代わりにやってくれる。
史上最もヒトを殺した生物
身近にいる恐怖
ところで、人類を最も多く死に追いやった生物とは何だろう。
ライオン?
サメ?
熊?
正解は蚊である。
南極大陸を除く世界のあらゆる地域に存在する、合計2500種類以上の蚊。
それらは実に年間70万人もの人間の命を奪う。
蚊による病原体感染で特に恐ろしいのがマラリアで、古来から現代に至るまで猛威をふるい、現在その患者数は約2億人、死亡者数は年間数十万人にも上る。
かように恐ろしい蚊による感染病だが、これは他人事ではない。
セブでもこの「蚊による感染病」に注意しなくてはならない。
デング熱に注意しよう
デング熱。
蚊を媒介とする感染症で、蚊に刺されてから3~7日程度で高熱・頭痛・目の痛み・関節痛等の症状を発する。
日本でも2014年8月に国内での感染が確認され一時期騒然となったこの感染病は、セブではさらに身近にいる脅威である。
基本的にはオリエンテーション時に注意される通り、「蚊に刺されないよう肌を過度に露出しない」「蚊がよく発生する水たまりの近くを歩かない」といった事前対策が重要になってくる。
特にセブでは時期にもよるがスコールがよく発生する。
「さっきまでは何もない地面だったが、いつの間にか雨が降っており水たまりができている」という場合が多いので、外出時は地面の状況に注意を払うことが望ましい。
とはいえ、マラリアとは比べ物にならないほど軽い感染病である。
人・人感染はせず、たとえ感染しても重症化することはかなりまれであり、現在治療薬やワクチンの研究開発が著しく進歩しているので「刺されたら死ぬかも」と心配する必要は全くない。
そもそも学校や寮があるセブシティは衛生状況が比較的良いので、それほど蚊は多く発生しない。
とにかく感染を防ぎ早期発見することが重要なので「(治安的にも女性の方は特に)肌の露出を減らす」「水たまりで遊ばない」「ピンときたらすぐ相談」を心掛けたい。
ちなみに人間の命を奪う生物第2位は「人間」だとか。
人の夢と書いて儚(はかな)い……何か物悲しい。
史上最も留学生を襲ったトラブル
トラブルを回避するための基本
なんか体験記っぽくなくなってきたのでこの章だけ口調変えます。
えーと、デング熱に続いて注意されるのは「治安の悪いところには行くな」というものです。
セブはフィリピンの中でも治安が良く、ことに観光客が多いセブシティはかなり安心して生活できます。
ですが、トラブルを避けるためにはやはり相応の事前知識が必要になります。
身体的に重篤な危機を避けるためには、
「興味本位でもスラム街には絶対立ち寄らない」
「夜の一人歩きは避け、移動は可能な限りタクシーで」
「初めて会った人は信用しない」
「ちょっと家においでよとか言われてもついていかない」
「人が多い場所で不用意に財布を取り出さない」
といった事が重要です。
「そんなことしないよ、当然だ」と当初は誰しも思います。
しかし、日数が経ってくるとセブ特有の開放的な雰囲気やトラブルの圧倒的少なさに慣れてきてしまい、「まぁこれくらいなら大丈夫だろ」と気を緩めてしまう人が多いのです。
比較的安全とは言え、世界トップレベルに治安のよい日本とは違う国です。安全対策の意識を常に持って油断せずに行動しましょう。
多くの留学生の方はさすがに心得ていらっしゃるので、外で遊びたい盛りの大学生グループでもそれほど大きなトラブルに巻き込まれることはありません。
多発するぼったくり
大きな事件が少ないかわりに、ぼったくりは留学生のほとんどが被害に遭います。
とにかく日本人と見られたらタクシーやバイク、値札の無い土産店などでこれでもかとぼったくってきます。
移動する際は、事前の相場調査が必須です。
NILSスタッフや信頼できる店の人に聞いて、○○から××まではタクシーでだいたい何ペソか、ということを把握しておきましょう。
事前に相場を知らないと、目的地に着いた後で相場の10倍の値段をふっかけられたりします。
ぼくが滞在中に聞いたケースでは、300ペソで行ける場所に3,000ペソを要求されたというものがあります。
また、たとえ相場を知っていたとしても、後で揉めたときに「フィリピン人ドライバーにかなり強く言われて、仕方なく払ってしまった」というケースもかなり耳にします。
これもぼくが滞在中に聞いた話ですが、大学生の女性3人だけでタクシーに乗ったところ、日本円換算で2万円を超える大金を要求され、こちらは女性だけなので色々と不安になり言われるまま支払ってしまった――というものです。
ぼったくり対策
日本人は心優しい人が多く、何かトラブルが起こると「こちらに非があるのかもしれない」と思ってしまいがちです。
しかし、外国に出たらその考えからいったん距離を置き、相手に非があると思ったら躊躇なく強く反論する勇気を持ちましょう。
また、できるだけトラブルを避けるため、女性の方は男性を含むグループでの行動を推奨します。
とはいえ、どうしても一人で出かけたい時もあるでしょう。
ぼくのオススメは、乗る前に値段交渉してしまうことです。
タクシーやバイクにおけるトラブルのほとんどは、目的地に着いてから運転手に要求される値段が法外な高さであることに起因しています。
これは、運転手が「こいつは値段の相場を知らなそうだし、日本人だから強く迫れば金を出すだろう」とこちらを舐めてかかっているから起きるトラブルです。
最初に「○○へ行きたい。100ペソでどうですか?」と聞くことで、「こっちはちゃんと値段を知っているんだぞ」と運転手を牽制することができます。
そこで運転手は「こいつは相場を知っているから法外な値段は要求できないな」と警戒し、適正価格に近い水準での値段交渉に移行します。この際、10ペソ(数十円)単位で多めの金額を要求してくることがありますが、精々その程度です。
事前の値段交渉で双方が合意しているので、目的地に着いた時に常識外の値段をふっかけるようなことはほぼありません。
少なくともぼくが経験した範囲では、これでトラブルが起きたことはありませんでした。
慣れてくるとメーターの不審な動きなども分かってくるので、事前の値段交渉がむしろ面倒になってきて、とりあえず乗る→目的地に着く→値段が高かったら抗議する→適正値で支払う、といったことも可能になります。
しかし最初のうちはとにかく事前に値段交渉するという方法をオススメします。
最初に値段が決まってしまえば、それ以後ぼったくりの心配をする必要は無くなり景色を楽しむこともできるでしょう。
また、値段交渉時の英語もかなりカンタンなもので大丈夫です。
「○○ホテル、130ペソ」と単語を並べるだけでも十分通じます。
事前の値段交渉では、時折
「130ペソで」
「いや、200ペソかかる」
「130」
「200だ」
「130」
「……分かった、190でどうだ?」
「140」
「170。これ以下では行けないね」
といったマンガでよく見る交渉風景が展開されます。
割と頑固な人が相手だと数分かかったりするので、面倒でしたら適当な所で「じゃあ150」「OK、それでいこう」といった具合に妥協点で落とし込むのも良いでしょう。
いずれにせよ、「行きたい場所までいくらかかるのか」という相場を知らないといけません。
セブシティ内やマクタン島までの相場でしたら、語学学校のスタッフの方がかなり正確に教えてくれます。
渡航前や滞在中に気軽に相談しましょう。
トラブル対処で一番大切なこと
以上のことは、あくまで「平和的な状況」が前提です。
具体的には「相手が武器を所有していなさそう」という状態です。
もし、相手がナイフや拳銃を取り出したら?
全力でおとなしくお金を渡しましょう。
外国では、凶器を見せられたら「最後通告」です。
抵抗したら命はないものと思ってください。
凶器を突きつけられたら、とにかく逆らわずその場を逃げることを考えてください。
持ち金を渡す程度で生命が守られるなら、安いものです。