極限状態に置かれたら26年来の食べ物の好き嫌いが治った話

yattane!

「食べ物の好き嫌いはどうやったら治るのか」。
子持ちの親御さんにとっては永遠のテーマでしょう。
無理やり食べさせるというのも一つの方法ですが、もっと良い方法があるかもしれません。
今回は、僕が26年間食べることのできなかった食べ物をひょんなことから食べられるようになった話をご紹介します。

極限状態に置かれたら人は何でも食べ始める

Fried Egg

photo credit: Matthew Murdoch

そもそもなぜ僕は極限状態に陥ったのか

フリーランスとして半ニート生活を送っていた僕は、月10万円そこらの収入で満足し非常にダラけた生活を送っていました。
人として堕落していくのを実感しながら生きていたある日、突如「このままではダメだ!」と悟り、物価の安いフィリピンのセブで2か月の缶詰生活を送りWebの仕事に精を出そうとしました。

無論、なんちゃってフリーランスの人間に潤沢な資金などある訳がありません。
様々な諸費用を差し引いてはじき出された公算によると、セブで1日に使える金額は2,000円でした。
宿泊費込みで1日2,000円。
これは、フィリピンの物価の安さを考慮に入れてもかなり挑戦的な見積もりです。
ものすごく切り詰めないと生きていけない。そんな状況でした。

当然のようにあらゆるものを節約しないといけません。
結果、1泊600円の宿で2か月間を過ごさねばならない羽目に陥りました。
関連:1泊600円! セブの激安宿「サグバテル・ファミリーホテル」に泊まってみた

さて、この宿はかなり格安ということもあって、セブの中でも相当治安の悪い場所にある宿でした。
夜に外を歩いていたら高い確率で犯罪に巻き込まれる……そんなデンジャラスゾーンです。
さすがに昼間は安全なのですが、到着直後の僕は完全にチキン野郎と化していたため、「日中でも徒歩で外出したら命が危ない!」と部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備に明け暮れていました。

経過

その宿に泊まり初めて迎えた朝、僕はいきなり立ち往生してしまいました。
朝食はどうしよう?

当初は何やらオシャレな3階のレストランに行ってみたのですが、モーニングセットは1食150ペソ(約400円)。
1日を2,000円で過ごさねばならぬ僕にとって、朝食400円は高すぎる出費です。
諦めて1階の食堂に向かいました。そこなら80ペソ(約200円)で朝食がとれます。

1階食堂の料理は確かに安いのですが、いかんせん量と種類とクオリティに劣ります。
パサついたライスと簡素な目玉焼きが基本セットで、メニューによりベーコンがついたり魚がついたりします。

ところで、僕は生まれてこの方目玉焼きが大嫌いでした。
黄身はいいのですが、あの独特の風味を持つ白身がどうしても受け付けられず、事あるごとに目玉焼きを残していました。
ベーコンエッグが出てきたらベーコンだけ食べていました。
白身がどうしても食べられないので、ゆで卵も大嫌いでした。
そんな人生を26年過ごしたので、「目玉焼きを食べる」という選択肢が頭の中に全くありませんでした。

当然、この日も目玉焼きを残しました。

極限状態前夜

更に数日が経ちました。
その間「お金もかかるし朝食なんていらないんじゃないか?」と朝食を抜いた日々を送っておりました。
また、とにかく食費を浮かせることに専念していたので、昼食夕食もかなり栄養的に偏ったものを食べる毎日でした。

しかし、食は生命の源です。
朝食抜き・偏った食生活生活を送っていたら明らかに体調が悪化していきました。

「まずい、ちゃんとご飯を食べなければ!」
そう思って翌日からきちんと朝食を取ることにしました。

しかし、ここで問題が発生します。
どこで朝食を取ればいいのか?

周りは治安の悪い場所です。なるべく外出はしたくない(①)
お金も問題です。なるべく安い所で食べなければならない(②)
その上で、少しでも多く栄養を取らねばならない(③)

①~③の条件を考慮した結果、最適な場所は一か所に絞られました。
ホテル1階食堂。
全てのメニューにライスと目玉焼きがついてくる場所です。

あ、これ極限状態だ

そして迎えた翌日の朝、僕の目の前にはライスと目玉焼きとウインナーが並んでいました。
正直言って、目玉焼きなどカケラも食べたくありません。
しかし、セブで今後2か月の生活を送っていくためには、どうしてもここで少しでも多くの物を食べておかないといけません
目玉焼きの栄養価の高さは知っています。
生き延びるために、食べねばならない
意を決して26年来大嫌いだった料理を口に運びました。

……どうしても不味いと感じてしまいます。
しかし、ものすごく我慢すれば何とかなりそうです。
重要なタンパク源です。残してはなりません。

生まれて初めて目玉焼きを完食できた僕は、奇妙な達成感に包まれていました。
それは、「好き嫌いを克服できた」という感動ではなく、どちらかというと「やれやれ、これで何とか生き延びていけそうだ」という安堵でした。

好き嫌いを克服しようと思って食べたわけではありません。
「嫌いなままでもいいから、とにかく腹に入れないといけない」という極限状態に置かれて初めて食べることが可能になりました。

初めて目玉焼きを完食できた日から数日が経ち、何度目かの目玉焼きを今日も完食しました。
相変わらず美味しいとは思えませんが、顔をしかめないでも食べられるようにはなってきました。
20歳を超えてからでも好き嫌いは克服できるんだなと分かり不思議な気分です。

なぜ好き嫌いが治ったのか

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「嫌いだけどそれを食べるしかない」という極限状況に置かれたことが最も大きな理由です。
この極限状態が生成された背景には、以下の要因が存在すると考えられます。

食べないことによるデメリットをよく理解していた

そもそもなぜこんな極限状態に陥ったかというと、「偏った食生活を送り体調が悪くなった」という原因が挙げられます。
一度体調が悪くなり、それに懲りて、「元気に過ごせるよう少しでも多くの栄養を取らねば!」と強く確信したことがきっかけとなりました。

食べることによるメリットをよく理解していた

あまり詳しくはないのですが、「卵はたんぱく質を豊富に含む栄養価の高い食品である」ということは分かっていました。
「これを食べれば再び体調不良に陥ることもないだろう」という大きな期待を込められたのも、好き嫌い克服の一助になりました。

他に選択肢が無かった

付近の治安は悪く、なるべく外出したくない状況で、なるべく安く、なるべく栄養のある物を食べなければならない。
そんな状況だったので、取りうる手段は「何が何でも食べなければならない」というものでした。
正直、玉子焼きがメニューにあったら間違いなくそっちを選んでいたと思います。

誰にも強制されなかった

これはかなり大きいと思います。
そもそも今回の「目玉焼きを食べねばならない」という状況は、誰に強制されたものでもありません。
自分で勝手にセブへ行って、自分で勝手に体調が悪くなり、自分で勝手に食べねばならない極限状態に陥りました。
つまり他者の意図・介入が全くない状況で、自発的に「食べよう」と思ったのです。
これが、誰かに強制『され』て、食べ『させられた』という場合だったなら、嫌いなものを食べさせようとする他者への反発心から、本来の意味で好き嫌いを克服することはできなかったでしょう。
1から100まで自分の力で食べた、そのことがある種の達成感を生み出し、「意外と食べられるじゃん」とその後も食べ続けられる土壌を生み出す結果になったのです。

似たようなものを食べていた

これもかなり大きな要因です。
白身の風味が受け入れらなかったことから、目玉焼きやゆで卵を食べられませんでした。
しかし、行きつけのラーメン屋に出てくる味付け卵は大好きでした。ナリはゆで卵ですが味が付いているので、白身の風味を8~9割感じずに食べることができました。1~2割は白身の風味を感じますが、長期間食べているうちにそれほど気にならなくなりました。これが重要です。
今回の極限状態で目玉焼きを食べてみた時の第一感は「大丈夫!あの味付け卵をかなり不味くしただけだ!いけるいける多分食える頑張って食え!」でした。
事前段階で「苦手な白身の風味」に、本当にほんの少しですが慣れていたことの意義は大きいと感じました。

僕が提案する「子供の好き嫌いを緩和する方法」

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以上の経験から、僕なりに「子供の好き嫌いを緩和する方法」を考えてみました。
なお「克服」ではなく「緩和」です。

好き嫌い克服を強制してはダメ

いくら親が「栄養あるんだから食べなさい!」と言ってもムダです。
苦手なものは苦手なのです。
今回僕は「嫌いだけど食べなければならない」という極めて稀なケースに陥ったことで好き嫌いを克服できましたが、1%でもそこに他者の意図が含まれていたとしたら、意地でも嫌いなものを食べなかったかもしれません。
「子供を極限状態に追い込んで何でも食べられるようにしよう!」というのは完全に逆効果です。

「克服」ではなく「緩和」を重視

そうは言っても子供には栄養のある食べ物を食べてほしい。そう思っている親御さんも多いでしょう。
好き嫌い克服を押し付けるのは逆効果です。
なので、「少しでも苦手な食べ物に慣れてもらう」という方向にそらしましょう。
アスパラが風味が苦手で食べられないお子さんなら、いっそアスパラの味がほとんどしなくなるくらいまで強烈な味付けを施しましょう。
本人が「こういう形でならアスパラを食べられる」という経験を得ることが重要です。たとえどんなに少しでもその味に慣れておけば、その効果は後々必ず意味を持ってきます。

食べることのメリットをきちんと伝える

子供に限らず、人間は好きなものなら喜んで食べますが、嫌いなものは基本的に食べたくないものです。
つまり、嫌いなものを食べるためには我慢して食べればそれを上回るメリットがあるということを本人が理解する必要があります。
今回の僕のケースで言えば、「お金も節約できるし体調不良を回避できる」というメリットがあったからこそ苦手だったものを食べてみる結果に繋がりました。
「それを食べるとこういうメリットがある」ということを、しっかり知識として伝えておきましょう。

ただし、「これは体にいいから」「丈夫な体を作るから」「将来病気にならないから」という定型句を言うだけでは効果は薄いです。
風邪になってもすぐ直ってしまう、放っておいてもどんどん身体が大きくなる子供にとって、「体にいいから」というキーワードでは何の共感も得られません。「だってそれ食べなくて困ったことないもん」。

効果があるのは、「食べれば即座に効果が出る」という謳い文句です。
「もっと背が伸びるから」「頭の回転がよくなるから」「心肺機能が高まり持久力が向上し今度の水泳大会で自己新の記録を出せるから」……。
食品販売の謳い文句並の話術を駆使してメリットを伝えましょう。
これを実現するために、親御さんには極めて深い食品の知識が必要になります。
頑張って勉強しましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回僕が得た経験が少しでも多くの方のお役に立てば光栄です。

好き嫌いは人によってその程度も様々です。
「克服」よりも「緩和」を重視していけば、ひょんなことから自動的に「緩和」が「克服」に繋がるかもしれません。
好き嫌いが激しいお子様には、最大限の愛情と時間と労力を割いて「緩和」に費やしましょう。

ところで、僕がどうしても好きになれない食べ物がもう一つだけあります。
ウニです。
これを食べなければならない極限状態というのは……お目にかかれなさそうですね。
値段も高いですし、このままウニ嫌いを貫こうと思います。