「読みやすい記事を書こう」
「分かりやすいサイトにしよう」
では、そのために具体的に何をすればいいのか?
実は「レイジーユーザー」というアイデアを取り入れることで、「いま何をすべきか」が驚くほどカンタンに判明します。
目次
レイジーユーザーとは?
レイジーユーザー。
直訳すると「怠惰なユーザー」。
かなり新しい言葉です。
2007年にFranck TétardおよびMikael Collanによって発表された「怠惰なユーザー理論:製品やサービスを選ぶときのユーザーを理解する動的モデル」という軽めの睡眠導入剤になりそうなタイトルの論文にて提唱された「レイジーユーザーモデル」がその初出とされています。
一言で説明すると
というものです。
生物学・行動経済学ではわりと有名な概念で、ビジネス界ではマーケティング・消費者行動心理の分野でよく活用されています。
一般的に人は、同じような結果が得られるなら最も楽な手段を選びます。
これは別に「なまけもの」というわけではなく、「少ない労力で最大の成果を上げる」という生物界の大原則に基づいているだけです。
すべてのユーザーは、なるべくラクをしたい。
これが出発点になります。
レイジーユーザーは何の役に立つのか?
それでは、レイジーユーザーを理解することで具体的にどう役立つのでしょう?
答えは「ユーザビリティの向上」です。
「ユーザビリティ」とは「使いやすさ」「分かりやすさ」を意味する言葉で、何かふわっとした感じでよく使われます。
ブログやサイト運営にあたって、読者や訪問者を増やすことは重要です。
そのためには「読者にとって分かりやすい記事」「ユーザーにとって使いやすいサイトデザイン」といったユーザビリティの高さが必須になります。
ただ、「じゃあ実際に何をやればユーザビリティが高まるんだ?」とお悩みの方も多いでしょう。
「レイジーユーザー」を理解すれば、ユーザビリティを高める手法が分かります。
以下で、ユーザーの圧倒的多数派である「レイジーユーザー」の特徴を見ていきましょう。
レイジーユーザーの特徴
ユーザーは考えたくない
ユーザーは何も考えたくありません。
ユーザーの理想は「一瞬で理解できる」こと。
自分の頭で1秒たりとも考えることなく、誰かが理解させてくれることを望んでいます。
例を挙げましょう。
あなたが仕事や学校でつかれて帰ってきた時、以下の3つのどれを見たいと思いますか?
- 小説: 文字
- 漫画: 文字と絵
- 動画: 文字と絵と音
大半の人は
1位:動画
2位:漫画
3位:小説
という順に選びます。
なぜでしょう?
その順で、頭を使わなくてすむからです。
文字だけで構成される「文章」は、「文字を見る」「意味を読み取る」「理解する」という3ステップを踏みます。
実はこれはかなり複雑な脳の働きを必要とします。
「文字ばかりの文章を読むのが苦手」という人が驚くほど多いのは、実際は不思議でも何でもないのです。
「漫画」なら絵があるので、直感的に理解できます。
「脳への負担が軽い」という点で、その「分かりやすさ」は小説を大きく上回ります。
きわめつけは「動画」。
テレビ・Youtubeというメディアがなぜこんなにも見られているのかというと、目の前で人や物が動き、音が聞こえ、イメージやイラストで補足説明がなされ、おまけに誰かがしゃべったことがテロップで表現されるという、見ているだけですべてを理解できる媒体だからです。
ユーザーは何も考えたくない。
何も考えず見ているだけで理解できるものを求めているのです。
これをブログ/サイト運営におきかえてみましょう。
- 文字ばかりの記事で、イラストや動画による説明がない
- 平易な表現を用いず、読者に前提知識を求めている
- 長々と文章を書いており、不要な部分が多い
- ボタンやアイコンといった視覚表現を導入していない
- 何が重要なのかパッと見でわかりにくい
どれか当てはまったら要注意です。
ユーザーは待ちたくない
Webの世界では今や常識となった「ページ表示速度」。
ページが表示されるまでの時間が3秒以上だと「あきらめてページを見ずに帰るユーザー」が一気に増える。
多くの調査で明らかになっている事実です。
たった3秒ですら待ちたくない。
シビアですが、これが現実です。
「行列好きの日本人なのにどうして?」と思われるかもしれませんが、それとは少し事情が異なります。
行列に並んで待っていれば、いつか必ずお店に入れて食事/買い物ができます。
ですがページが表示されるのを5分待ったとしても、システムエラーなどで必ず見れるとは限らないし、そもそもページの先の情報を何が何でも見たいと思っている人はごく一部です。
「ちょっと面白そうだからすぐ見れるなら見てみよう」と考えてリンクをクリックするユーザーが多数派である以上、ページの表示速度改善は必須です。
これは記事の書き方やサイトデザインにも言えます。
- 最後まで読まないと何が言いたいのかわからない
- 必要な情報を探すのに時間がかかる
こうした欠点をかかえるブログやサイトは改善の余地があります。
1秒でも早くユーザーが必要としているものを届けましょう。
記事の書き方でいえば、「タイトルに結論を書く」「目次だけで9割が伝わるように構成する」を意識すると読了率は大きく向上します。
ユーザーは迷いたくない
ユーザーに選択肢を与えるのは良いことです。
ただしそれがいつも正しいとは限りません。
一般に、ユーザーは多すぎる選択肢を与えられると選ぶことをやめてしまいます。
どれを選べばいいか分からなくなるからです。
これは「選択のパラドックス」「決定回避の法則」と呼ばれる心理現象で、消費者行動における代表的な傾向です。
例で考えてみましょう。
以下のようなWebサービスを紹介したページがあるとします。
コース名 | 月額費用 | 転送速度 | サポート |
Aコース | 500円 | 1MB/s | なし |
Bコース | 2,000円 | 10MB/s | メールのみ |
Cコース | 5,000円 | 100MB/s | 全サポート付き |
Dコース | 10,000円 | 1000MB/s | 全サポート+VIP待遇 |
いかがでしょう。
パッと見、どれを選べばいいか分からないですね。
「すべてのユーザーが書かれていることを熟読し、吟味し、比較し、最終的に合理的な結論を下してくれるだろう」と思ってはいけません。
「私にとっての正解はどれだろう?」と悩むのは、ユーザーにとって大きな労力です。
ユーザーは「選択肢を与えられる」「その中のどれが正解かを教えてもらう」「与えられた正解を自分の意思で選択する」ことを望んでいます。
たとえ「与えられた正解」ではあっても、最終的に「選んだのは自分だ」とユーザー自身が納得したいことに注意してください。
以上を踏まえると、さきほどの表は次のように改善できます。
コース名 | 月額費用 | 転送速度 | サポート |
Aコース | 500円 | 1MB/s | なし |
Bコース 一番人気! |
2,000円 業界最高のコスパ |
10MB/s 十分な速度 |
メールのみ 満足度94% |
Cコース | 5,000円 | 100MB/s | 全サポート付き |
Dコース | 10,000円 | 1000MB/s | 全サポート+VIP待遇 |
一見しただけで「1番人気のBプラン」=「おそらく自分にとっての正解はこれだろう」と認識できますね。
多くのWebサービスで「おすすめプランはこれ!」と記述されている理由はこれです。
書店のポップにも同じことが言えます。
多くの本が並んでいる中で「これがオススメ!」と言われたら思わず買いたくなってしまうのも同様の現象なのです。
選択肢は3〜5つ以下におさえましょう。
そして必ず、ユーザーが迷わずに決断できる根拠を用意しましょう。
ユーザーは疑いたくない
多くのユーザーは、あまり時間や労力をかけたくありません。
なので比較や検討・熟慮を必要とされると、とたんに離脱します。
たとえば?
- パソコンのスペックを延々と並べただけのページ
- 本当かウソか分からないことが羅列されているページ
- 「あとはご自身の目でお確かめください」で終わるページ
- 「AもいいですがBもいいです。お好みでどうぞ」で終わるページ
「ユーザーは、書かれていることは真実か?」「どれが正解なんだ?」という気持ちになると、検証を放棄してすぐ離脱します。
自力で調査して考える「検証」はものすごく面倒だからです。
「ここではないブログ・サイトに正解が書かれているだろう」––そう期待して。
ユーザーがムダに考えなければいけないようなコンテンツは避けましょう。
論理的な構成で、過不足なく情報を記載し、ユーザーが求めるものを先回りして用意して、読むだけで完全に納得するような”説得”を心がけるべきです。
ユーザーは損したくない
行動経済学には「プロスペクト理論」というものが存在します。
かんたんに言うと、
人間は、目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)がある
というもの。
似たような概念として「損失回避の法則」「損失回避バイアス」も存在します。
何が言いたいかというと、ユーザーはとにかく損をしたくないのです。
「得られるはずのものが得られない」。
「失わないはずのものが失われる」。
これらを何よりも回避しようとします。
「このサイトは私にプラスを与えてくれるだろう」
「この記事を読めば良い情報が手に入るだろう」
「このサービスを使えばきっと好ましい未来が訪れるだろう」
なるべく早い段階––できればブログやサイトに訪れた瞬間に––ユーザーにそう思ってもらう必要があります。
- 第一印象が「何か安っぽいサイト」
- ネガティブ・デメリットなことばかり記載する
- 主観的な意見のみで信ぴょう性の薄い記事を書く
- 客観的なデータを用いない
- 効果・有効性を保証しない
これらの特徴が現れているブログ・サイトは、損失を回避したがる多数のユーザーに信用されません。
ユーザーは成果が欲しい
ブログやサイトを訪れたユーザーは何を欲しているのか?
情報? 商品? サービス?
どれもまちがっていません。
が、少しズレています。
ユーザーが欲しいのは、記事に書かれた「情報」「商品」「サービス」の先にある「満足」です。
ユーザーは、記事の「情報」「商品」「サービス」を読んだり買ったりして、納得して、満足したいのです。
サイト運営者にとってユーザーは、記事を読んだりモノを買ってくれたりする「顧客」です。
なので、ユーザーが何かしらのアクションを取ってくれたらそこで終わりと考えてしまいがちです。
しかしユーザーにとって「読む」「買う」はあくまで途中経過です。
ユーザーの最終目的は「自分が満足すること」。
アクションを起こして終わりではないのです。
- 「よくある質問」を丁寧にまとめている
- 「手順」や「役立つテクニック」が詳しく分かる
- 「使い方」の分かりやすい図解・解説ページがある
これらの特徴を持つサイトに人が集まるのは当然と言えます。
ユーザーが目的を達成して満足できるようなコンテンツが存在するからです。
ブログやサイトの運営者は、ユーザーのアフターフォローも万全に行いましょう。
直接的にはリピーターの増加に繋がるほか、情報をよく吟味するタイプのユーザーを惹きつけることができます。
また、「情報だけのページ」を書く場合、必ず一貫した結論を書くことを意識しましょう。
ページを読んで満足したいユーザーにとって、はっきりとした一定の結論は何よりも重要です。
ユーザーは疲弊している
レイジーユーザーはとにかく労力を嫌います。
なぜかというと、(最近は特に顕著ですが)ユーザーはみんな疲れているからです。
現代人はひたすら疲労の連続です。
学校・会社・人間関係で体力や精神力が消費されるのはもちろん、テレビやネットで驚くほど多くの情報が飛び交い、そのたびに思考と記憶と知識のスクランブルエッグが生成されます。
ユーザーはとにかく疲れているのです。
なので1番ラクな方法を選びますし、潔いくらい本当にすぐあきらめます。
いちいちパソコンでネットを見ることはしません。スマホやタブレットで済ませます。
実際に多くのブログ・サイトは、スマホでの閲覧率が60〜80%です。
長くて分かりにくそうな文章だったら離脱します。
ボタンが分かりにくかったらクリックせずにあきらめて帰ります。
リンクをクリックして別タブが開くようだったら、「戻る」ボタンで戻れないので二度と戻りません。
「1ミリの段差を越えるくらいなら引き返す」とでも言わんばかりのあきらめの良さに対抗するには、サイト運営者が思っているより7段階くらいハードルを下げてあげないといけません。
早く表示すること風の如く。
無駄がないこと林の如く。
感情を揺さ振ること火の如く。
安心感を与えること山の如く。
ユーザーの代わりに全部やってくれる超有能執事のつもりで考えましょう。
- スマホ最適化
- ページ表示速度高速化
- AMP対応
- 文字を大きくしてスマホでも見やすいように
- 短く分かりやすい文章表現
- 想定される疑問の解消
などは必須項目です。
まとめ
「レイジーユーザー」は、けっして極端なユーザー像ではありません。
一般的に当てはまる特徴が多い分、むしろ「理想的なユーザー像」と言えます。
レイジーユーザー向けの対策を講じれば、必然的に多数派のユーザーを惹きつけることになるのですから。
ブログ・サイト運営者の方は「それくらい頑張ってくれよ」と思う特徴が多かったかもしれませんが、ユーザーはまさに「それくらい頑張ってくれよ」と運営者に対して思っています。
忘れないでください。
レイジーユーザーには「あきらめて帰る」「別のサイトを見に行く」という選択肢があります。
ですが我々運営者には「多くのユーザーを集める」という選択肢しかありません。
レイジーユーザーをメインの対象に考えてブログやサイトの改善を行ってください。
そうすれば必ず多くのユーザーが訪れるようになります。
一般的なユーザーはそれを求めているのですから。
参考書籍・参考リンク
行動経済学の名著。
すべてのビジネスマン(特にセールス&マーケティング部門)、ブロガーやサイト運営、アフィリエイトに関わる方たちが絶対に読むべき一冊。