「今日モアイがあるから」「ちょっとモアイに行ってくる」––沖縄に移住するとたびたび耳にするようになる、「モアイ」という謎のシステム。
もちろんイースター島にある人面を模した石像のことではありません。
沖縄人以外には馴染みのないこの模合(もあい)について、現地の目線から解説していきます。
模合、それは沖縄の金銭相互扶助システム
概要
模合とは、定期的に複数の個人が集まって一定額の金銭を出し、それを1人ずつ順番に受け取っていくシステムのことです。
主な流れとしては以下のようになります。
- 何人かが集まって模合のメンバーになる
- 毎月の金額を決める
- 今月の「親」を決める
- 金額×人数分のお金を「親」が受け取る
- これを毎月繰り返し、全員が親をしたら終了
- 以上のことをずっと繰り返す
ちょっとわかりにくいので具体的な例を見てみましょう。
- 仲の良い5人(A,B,C,D,E)が集まり模合を始める
- 毎月1万円ずつ出し合うことに決定
- 今月の「親」はAさんに決まる
- 5万円(1万円×5人)をAさんが受け取る
- これを毎月繰り返し、B,C,D,Eさんが親になり一巡したら終了
- 以上のことをずっと繰り返す
つまり、模合のメンバーとなった人たちが出し合ったお金を1人が受け取ることを毎月繰り返し、全員がお金を受け取ったら一旦終了で一区切りという流れです。
出した金額分のお金は必ず最終的に戻ってくるので、模合に入ったところで金銭的に損も得もしません。
模合がある理由
では、いったい模合とは何のためにあるのでしょうか。
大きな理由はコミュニケーション促進です。
金額の寡多に関わらず、ある一定以上のお金を他人に預けるので、信頼の置ける仲間同士というコミュニティ内でしか模合は成立しません。
仲の良い友人たちが月に1度集まるのは重要な会合の機会です。
実際、現在の模合はその多くが飲み会の口実として機能しており、模合の金額も5,000〜30,000円が一般的なようです。
学校の旧友と組んだ模合が数十年にわたることもザラであり、生涯の友と呼べる関係をつくる模合は現代でも重要視されています。
かけもちも許容されており、人によっては(というかほとんどの人が)複数の模合に所属しています。
毎月何度も出費や会合があると色々面倒にもなってくるように思えますが、飲みながら近況を報告しあい濃密なコミュニケーションを行い仲間同士の結束が固くなっていくことはやはり魅力的です。
模合の歴史
模合の発祥は古く、その原型は18世紀以前の琉球王朝の時代にはすでに存在したようです。
かつて銀行の利子が高く、多くの人にとって「融資」が遠い存在だった頃、一般庶民向けの金融制度としての地位を本格的に確立したのが現在まで続く模合のルーツだそうです。
「ちょっと今月厳しくてお金が必要なんだ」といった時に、仲間同士が一時的にお金を貸し合ったことが始まり––というわけです。
気軽に行える資金調達の手段として、沖縄のあちこちで重宝されました。
特に戦後の金融機関の復興の遅れで流行した模合の規模は、沖縄県内だけで40億円にも届く規模で行われていたとか。
苦しい時に助け合ったシステムが、形を変えて現在ではコミュニケーションの場として活躍する。
歴史を大事にする沖縄らしい風習ですね。
模合の鉄則、破れば惨事
模合はお金を他人に預けるシステムです。
必然的に金銭的なトラブルが起こりやすいので、模合には必ず守るべき鉄則が存在します。
鉄則はいくつかありますが、最も大事なのは「お金を持ち逃げしない」こと。
そして、「金を渡さずに模合を休むのは厳禁」ということです。
それがわかるエピソードをひとつご紹介しましょう。
ぼくは沖縄の離島のひとつ、宮古島で働いておりました。人口5万人程度の島です。
ある日、上司が「今日模合だから早めに帰るね」と言いました。
するとその数十分後、ある方がオフィスに訪れました。
その人は宮古島でも相当高名な方で、一言で言うとかなりのお偉いさんです。
「ごめん、今日急用があって模合行けなくなった」
その方はそう言って、上司に現金数万円を渡し、そしてすぐ帰って行きました。
何事かと思って上司に聞いたところ、どうやら「模合を休むときは、前もって誰かに金銭を渡しておく」「現金を誰かに渡さずに模合を休むことは許されない」という掟があるようでした。
「あんなに偉い人でも、お金を渡すためだけにわざわざ足を運ばねばならないのか」と模合の鉄則力に驚いたのを覚えています。
信頼できる仲間同士だからこそ、守るべきところはしっかりと守らねばらないのですね。
まとめ
以前は「お金の貸し借り」に重点が置かれていましたが、現在では「飲み会や会合の口実」として使われることが多い模合。
月に1度という頻度で会える仲間内の集まりがあるからこそ、沖縄の人たちは豊かな交友関係を築いていけるのでしょう。
地元に帰ったらぜひ友人とやってみようと思います。