将棋用語で昔話「桃太郎」を読んでみた

むかしむかし、あるところに永世名人とクイーン王位がくらしていました。

ある日、名人は山へ若手狩りに、クイーンは川へ棋譜並べをしにいきました。

すると、川上から大きなフルーツ盛り合わせが流れてきました。

「なんとりっぱなおやつでしょう」

クイーンはそれを家に持ち帰り、次回棋戦の糖分補給用に保存しようと思いました。

「第一感、切ります」

家に帰った永世名人がつぶやいたとたん、フルーツの中から小さな神童が生まれました。

「ひょーーーーー」

弟子のいなかった名人とクイーンは大喜びです。

神童は「桃太郎」と名づけられ、やがて小学生大会で優勝するほど強い男の子になりました。

ある日、桃太郎が言いました。

「鬼ヶ島(しょうれいかい)に行って、鬼を退治します」

研究用のコンピューターを片手に、桃太郎は出かけました。

イヌに出会いました。

「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」

「奨励会の三段リーグに」

「一目、足りません」

イヌは桃太郎のおともになりました。

サルに出会いました。

「力を溜めましょう」

サルは桃太郎のおともになりました。

キジに出会いました。

「鳥刺しならお手の物です」

キジは桃太郎のおともになりました。

鬼ヶ島では、全国から集まった規格外の天才たちによる壮絶な潰し合いがおこなれていました。

桃太郎は事前のインタビューで戦型を「鬼ごろし」と宣言しましたが、ノータイムで居飛穴に組みました。

鬼たちは盤外戦術で形勢を損ねましたが、難解な捻り合いの中で嫌味をつけて勝負手を連発し、なんとか穴熊に食らいつきました。

「どちらを持ちたいですか?」

「実戦的には鬼側です。桃太郎もまだZとはいえ、ここから打開するのは難しそうです」

近くで戦いの様子を解説する名人とクイーンですが、直後、桃太郎側に鬼手が出ました。

「おおーやった!」

「ただやん」

「取ると鬼は詰みます」

攻守が入れ替わり、目から火の出る王手飛車。

何度か謝りましたが、鬼はとうとう必至をかけられました。

「頼む……気づかないでくれ……」

「読み切りです」

「あ、負けました」

鬼は退治され、桃太郎は四段になりました。

「何が敗着でしたか?」

「馬じゃなくて角でしたね」

「なるほど打ち歩詰め回避」

感想戦を終えた後、桃太郎は鬼と別れ家に帰りました。

名人とクイーンはやがて永世八冠になる桃太郎といつまでも幸せにくらしましたとさ。

おしまい