ゼミにもサークルにも所属せずに遊び呆け、就活で撃沈した大学生が取る道は2つしかない。
自分磨き(現実逃避)か、留年(もう1年遊ぶ)かである。
ぼくは前者を選んだ。
当時は本気でそれが「前向きなスキルアップ」だと思っていたからだ。
とても恥ずかしい。
目次
情報戦は大事です
語学学校はどこにしますか?
フィリピンに留学すると決めたはいいが、まず何をしたらいいのか分からなかった。
仕方ないので、今晩のおかずからレポート丸写しのタネまで何でも知ってるGoogle先生に聞いてみた。
NILSという語学学校が良さそうです
脳内協議の結果、NILSという語学学校にアタリをつけた。
ビーチリゾートで有名なセブという地方にあるようだ。
「日本人経営」「フィリピン政府認定語学学校」という安心感あふれるステータスに加え、「1日4~8時間の完全マンツーマンレッスン」と「4週間で20万円を下回る料金」という売り文句に心を惹かれた。
何しろ安いのに越したことはない。
こちとら学生ビジネス(笑)で順調に失敗を重ね20万円を失った身である。
今書いてると死にたくなってくるが仕方ない。
ともあれ、とにかくNILSに資料請求してみることにした。
大きな出費が必要になる時、事前の情報収集が何よりも大切になる。
実際に届く資料には、公式Webサイトでは網羅しきれない細かい料金や規約が載っている事も多く、何かとお得である。
なにより、資料請求するだけならタダなのだ。
無料なのだ。
お金がかからない。
すばらしい。
資料請求して届くまでのんびりと待つことにした。
精査の結果、特に問題がなく、ネット上での評判も良かったので、そのままぼくはNILSに決めた。
めんどくさいのは航空券です
あわてて飛行機を探します
もともと怠惰な人間だったので、NILSに留学費用を振り込んだ以外は特に準備らしいことをしないまま数ヶ月が過ぎた。
渡航が数週間後に迫ったある日、まだ航空券を用意していなかったことに驚愕したぼくは、あわてて航空会社のWebサイトにアクセスした。
通常、フィリピンの語学学校には寮があり、生徒はそこで普段の生活をすることになる。
どの語学学校でも入寮日は日曜に設定されていることが多い。
なので日曜あるいは土曜の航空券を取れれば最高である。
のだが、取るのが遅すぎたので土日の航空券の値段が恐ろしく高い。
仕方がないので、入寮予定2日前で14,000円ほど安い金曜日のフライトチケットを取った。
フィリピンの物価は日本の5分の1程度である。安いホテルなら1泊2,000円で泊まれる。
入寮日までは現地でゆっくり過ごせばいいやと思っていた。
あなたは直行便?
さて、ぼくが行く語学学校NILSはフィリピンのセブに居を構える。
セブというのはフィリピンの地方都市の島である。首都マニラからは離れている。
よって日本からも直行便が少ない。
現在は1日2便ほどフィリピン航空の成田/羽田-セブ便が運行されているが、当時の直行便はANA/JALといった超大手航空会社の便しかなく、値段も泣きたくなるほど高価であった。
航空券だけで現地の生活費3か月分が飛ぶような直行便は、できれば避けたかった。
それとも経由便?
第二の選択肢としては、第三国経由の航空券が考えられた。
一旦別の国に降りて、その空港からセブに飛ぶというものである。
代表的なものにはソウル経由の大韓航空、台北経由のチャイナエアラインなどが挙げられる。
値段は直行便より安く、便数もかなり多い。
さらに、治安の悪いマニラ空港(後述)で乗り継ぎをしなくてよい分、安全面でも申し分ない。
実際、これを利用してセブの語学学校に来る人も多かった。(というかほとんどだった)
LCCを授けましょう
ぼくが選んだのは第三の選択肢、LCC(格安航空会社)である。
悪名高いマニラ空港で乗り換える必要があるが、とにかく航空券が安い。
時期にもよるが、75%オフとかいう経理係を解雇したとしか思えない割引をやってくれる会社もあるので、うまくチケットを取れれば12,000円程度でマニラまで行くことも可能だ。
東京や大阪から出ているセブパシフィック、ジェットスターなどがLCCの代表格である。
マニラへ行ったら片道2~3,000円程度のフィリピン国内線に乗り換えてセブまで行けばいい。
安さは正義! キミに決めた!
と脊髄反射でLCCのチケットを確保した。
このおかげで後々スーパーややこしい事態に陥るのだが、その話はまたいずれ。
ドッキドキの出発前夜
大学も夏休みに入った8月上旬、フィリピン渡航を翌日に控えたぼくは眠れずにいた。
ずっとパソコンにかじりついていたのだ。
ワクワクして楽しみだったからじゃない。
ヤバいと悟ったからだ。
もともと、出発前日のその日は、荷物詰めを終わらせすみやかに寝ようとしていた。
明日は7時起き。
寝過ごすと飛行機に間に合わない。
だから早寝する。
誰だってそうする。
ぼくだってそうする。
寝る前に、マニラ空港に着いてからの面倒な乗り換えについて最後に少しチェックしておこうと思いPCを立ち上げた。
ふむ。なるほど。正式名称は「ニノイ・アキノ国際空港」。ターミナルは4つか。現地に着いたらターミナル1からターミナル2に乗り換えて…。
と、この辺でどのサイトもやたらと「注意」「危険」「気をつけて」「寝るな」などのコーション系キーワードを載せまくっていることに気がついた。
何かいやな予感がした。
よくよく調べてみると、ニノイ・アキノ空港は世界の国際空港ワーストランキングの常連入りで、2013年には「世界最悪の空港」の異名を取ったほどの危険地帯であることが分かった。
ボロボロに老朽化したターミナル、水が流れないトイレ、タクシーのぼったくり具合、頻発するスリ・強盗事件など、叩かなくても粉が出るくらいの悪評っぷりである。
そもそも空港があるマニラという都市は東南アジアでも有数のレッドゾーン。
治安の悪さは折り紙つきであり、過去に邦人が殺されたケースもある。
え? これ行ったら死ぬのでは?
夏も盛りだというのに冷や汗が止まらなかった。
とにかく身の安全や財布のお金を最優先で確保するため、色々なwebサイトを巡りまくって情報をあさった。
イエロータクシーを使え、メーターは倒させろ、声をかけてくるやつは全員ヤバい、誰も信じるな……。
調べれば調べるほどフィリピンの治安情報に不安が募ってくる。
日本を出てから目的地のホテルに着くまでの流れを7回ほどシミュレーションし、最後に「大丈夫だ」と自分に言い聞かせまくってようやく床に就いた。
時刻は朝の4時。
夜が明け始める。
長い長い1日が、もう始まっていた。