不思議な算数テスト「船長はいくつ?」で真の論理力が試される

2018年、とある算数のテストが世界各国に衝撃を与えました。

それは中国・順慶区の学校で行われた小学5年生の算数の問題。

あなたはこの問題が解けますか?

問題

ある船に、羊が26頭、ヤギ10頭が乗っています。

この船の船長の年齢は?

さあ、解いてみよう!

先に言っておきます。

問題文に誤りはありません。

一見すると意味不明な問題です。
実際、このテストを受けた生徒たちは困惑しました。
この問題をニュースで見た全世界の人々も。

この短すぎる(そして不可解な)算数の問題は、いったい何を”問い”にしているのか?

かなり変わった方向性です。
1分ほど考えてみてください。

少し下にスクロールすると答えがあります。

 

 

 

 

正解

 

 

わからない

 

解説

ある生徒の解答

問題を解こうとした生徒のうち1人が以下のように解答しました。

「船長は大人でなければならないので、少なくとも18歳である」

ある大人の解答

中国最大のSNSであるWeibo(微博・ウェイボー)のユーザーの1人が、以下のように解答しました。

それぞれの動物の平均体重を考慮に入れると、26頭の羊と10頭のヤギの合計重量は7,700kgである。

中国では、5,000kg以上の貨物を運ぶ船を運転する場合、5年間ボート免許を保持し続けなければならない。

ボートの免許を取得できる最低年齢は23歳。

ゆえに船長は少なくとも28歳である。

“正しい”答え

ある船に、羊が26頭、ヤギ10頭が乗っています。

この船の船長の年齢は?

問題となる文章において、船長の年齢に関する記述は一切出てきません。

解くことは不可能です。

そのため、論理的に正しく答えるのであれば「わからない」「正解を導くのに十分な情報がない」が解答になります。

この問題の意味

なぜ、このように「明らかに解けない問題」が出題されたのか?

順慶教育局によるコメントは以下の通りです。

「我が国(中国)の小学校の生徒は、数学に関して重要なことを見落としている」

「調査によると、生徒たちは、数学に疑問を抱く意識と批判的精神がない」

「この問題は、学生の質問意識・批判的意識・数学的問題とは無関係に考える能力があるかどうかをテストしている」

「解決できるように設定された問題」が生んだ驚愕の結果

実は、まったく同じ問題が1979年にフランスの研究者によって出題されています。

その際は、小学校1年生・2年生に対し以下のような問題が出されました。

「船には、羊26頭と山羊10頭が乗っている。この船のキャプテンの年齢は?」

正解はもちろん「十分な情報がない」「わからない」です。

——しかし、なんと75%以上の生徒が「26 + 10 = 36歳」という『数字を使って”それらしい正解”を作り上げて答える』という行動をとりました。

さらに歴史を紐解くと、1841年に『ボヴァリー夫人』で有名な小説家ギュスターヴ・フロベールが妹キャロラインに送った手紙の内容にその原型を見出せます。

「群れには125頭の羊と5頭の犬がいる。羊飼いは何歳ですか?」

フロベールの手紙に書かれたこの問題を出題したところ、

125 + 5 = 130歳(年寄りすぎる)
125 + 5 = 120歳(年寄りすぎる)
125 ÷ 5 = 25歳(まあ妥当だろう)

という理屈から、ほとんどの生徒が「羊飼いは25歳」と答えてしまう事態になりました。

フランス・ドイツ・スイスの生徒においても同様でした。

「疑問を持つ」ということの重要性

多くの生徒が、無意味な問題を「解決」しようとしました。

  1. これは算数の問題である
  2. 算数の問題には必ず答えがある
  3. よって、この問題には正解がある
  4. ならば、問題文の要素を使えば正解になるはずだ

以上のような思考です。

実際、ほとんどの試験においてはそれは正しい理屈でしょう。

しかし、全てにおいてそうではない。

不条理な問題が出てきたら、「答えられない」が正解です。

学校を卒業して大きな世界で生きてゆく中で——誰しもが数えきれない程の問題に行く手を阻まれます。

「この問題に対処しなければならない」

そんな時、多くの人は「この問題には解決法がある」「それを探さねばならない」「失敗したら見つけられなかった自分が悪いのだ」と思わず考えてしまいます。

しかし、「たったひとつの冴えたやりかた」を血眼になって探す前にまず考えるべきなのは、「そもそもこれは正解がある問題なのか?」「というよりこれは問題なのか?」ということ。

無意識的に「大前提」にしてしまっていることを、疑うこと。

枠に囚われずに考えること。

論理的に導き出された答えを、非論理的に上書きしないこと。

「船長の年齢は?」問題の目的は、生徒たちの数学の批判的思考(クリティカル・シンキング)の欠如に警鐘を鳴らすことでした。

しかし同時に、この複雑で厳しい世界を生き抜くために最も重要なことを——私たち大人にも——教えてくれるのです。

あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法。

「論理」という大きな武器を。

参考

The REAL Answer To The Viral Chinese Math Problem “How Old Is The Captain?” Stumping The Internet

Age of the captain

This Chinese math problem has no answer. Actually, it has a lot of them.

140字以内の問題文

ある船に、羊が26頭、ヤギ10頭が乗っています。

この船の船長の年齢は?

※中国・順慶区小学校5年生の算数の問題