セブ語学留学体験記vol.4 Don’t be afraid

フィリピンに到着し一夜が明けた。

異国の地で迎える一人きりの朝。
どこか遠い日の情緒を思い起こさせる。

目の前には新しい世界。見たことの無い景色が広がっている。
色んなところに行ってみよう!

と思ったが外出が怖かったのでぼくは引きこもりを選んだ。

見知らぬ、天井

表通りの騒々しさとカーテン越しの日光で目覚めると、なじみの無い天井が目の前にあった。
そうか、フィリピンに来たんだっけ。

のそのそと起き上がるが、なにぶん一人きりで海外に来るのは初めてである。
いきなり銃撃戦が始まるかもしれない。
朝食に行く勇気も出せず部屋でごろごろと本を読んでいた。

とは言えさすがに2時間も経つと空腹が厳しくなる。
意を決して1階のレストランへと足を向けた。

レストランにGo

「レストラン」と言っても小さいホテルなので、机と椅子が数セットあるだけの簡素な一室である。

だが、日光をふんだんに取り入れ、ドアや扉を排除したガラス張りの設えは非常に開放的で、表通りの様子が直に見えるその場所はまさに「異国情緒」を感じさせる名設計だった。

「コーラ」を注文したら缶コーラとグラスがそのまま出てきたり、なんとなく肉メインの料理しかなかったり、そもそもドアが無いから虫が飛んできたりというような些細な出来事もあったが、おおむね満足がいくものだった。

というか「外国で一人食事を取る自分かっこいい」という自己満足で忙しかった。

外にGoしたくないけれど

さて、朝食後に何をしたかといえば相変わらず部屋で引きこもっていた。

何しろつい2日前まで「フィリピン やばい」「セブ 治安」という単語をGoogle検索に投げまくっていた男である。
いくらセブがフィリピン国内でぶっちぎりに安全とはいえ、「もしものことがあったらどうしよう」と5時間ほど部屋から出られないでいた。

だがさすがに14時過ぎにもなると、フィリピン到着2日目の日記に「今日も冷房の音がうるさかった」としか書けないのはどうなんだろうという気になってくる。

空港で両替した金額は多くなかったので、どこかで両替もしなくてはいけない。

何より昼食がまだなのでお腹がすいていた。

そんなわけでフロントにキーを預け、出かけることにした。
曇り空だがたぶん大丈夫だろう。

ちなみに係員の人が「今タクシーを呼ぶから」と言うと数秒後にタクシーが用意された。
なぜセブにはこんなにタクシーが多いのか気になったが、今はタクシーのぼったくりに合わないよう全力で注意すべきである。

事前にフロントの人に聞いておいた相場の値段を言い、問題なく乗り込むことが出来た。

目指すは買い物と両替と腹ごしらえが一辺に出来る場所、ショッピングモールである。

勝利と敗北の軌跡

ショッピングモールにGo

セブシティにはショッピングモールが多く、大小合わせるとかなりの数が存在する。
ぼくが目指したのは、その中でホテルに最も近いBanilad Town Center(バニラッドタウンセンター)というモールだった。

目的地に到着し、お金を払って降りると「帰りはどうやってタクシーをつかまえよう」とものすごく不安になった。
下手なタクシーをつかむと運転手ぐるみの強盗に遭いかねない。(ネットに書いてあった)

ヤバい。
死ぬかもしれない。
ホテルから出なければよかった。

後悔ばかりが渦巻いて、半ば本気で乗ってきたタクシーで帰ろうかと思った。

今考えるとチキンにも程があるが、右も左も分からない初めての一人海外旅行では誰しもこういう不安に襲われ続けるものである。
と思いたい。

結局タクシーは既に消えていたので、あきらめてモール内を散策することにした。

両替所にGo

まずは両替所に向かう。

一般的に外国での両替は、空港より市内の方がレートがいい。
ゆえに、両替時のロスを少なくしようとするなら、空港での両替は最小限に留めるべきである。

この日の公式レートは1円=0.451ペソで、このモールでのレートは1円=0.445ペソ。
昨日のセブ空港での両替レートが1円=0.41ペソだったことを考えると、市内のレートはやはり格段に良い。

10,000円につき700円も変わってくる。

「たったそれだけか」と侮るなかれ、700円(≒350ペソ)もあったらフィリピンでは小奇麗なレストランバーでしこたまビールを飲んでたらふく料理を食べてもまだお釣りがくる金額である。

ジャパニーズレストランにGo

大満足の両替を終え、次に向かったのはレストランだった。

目に付いたのは「Japanese Restaurant “悟空”」。

やはりドラゴンボールは海外でも人気なんだなと思いつつ店に入った。

イントネーションの関係なのか、女性店員の「いらっしゃいませ!」がヤケクソ気味に聞こえてしまうのはきっと気のせいだろう。
店内はかなり綺麗で日本人が好きそうな内装だった。
というかほぼ日本だった。

振袖姿でめちゃくちゃ可愛い現地の女性店員にオーダーを取られ、とっさに高いカツ丼ざるそばセットを頼んでしまったが、値段が高かったことと量が少なかったこと以外は何も問題なかった。

何も問題なかった。

ショッピングモールの宣教隊

腹ごしらえも終え、あとは夕食を買って帰るだけである。

せっかく物価の安いフィリピンに来たんだから外で食えよと今なら言えるが、当時はやはり夜の外出が怖すぎたため、そもそも外食するという発想にすら至らなかった。

モールの1階に揚げ物の露店が出ていたので、何かご飯代わりのものはないかと立ち寄ってみた。

すると、売り手の2人が話しているのはどうやら日本語であることに気づく。
あ、日本の人っぽい。

日本語で話しかけたかったが、周りはフィリピン人ばかりである。
もしかしたら空耳だったかもしれないと何となく気後れし、英語で値段を聞く。

“How much is it?”(いくらですか?)
“20 pesos … and where are you from?”(20ペソです……ちなみにどちらからお越しで?)
“I’m Japanese.”(日本人です)
「ああ日本人ですか(笑)」
「あ、やっぱり日本の方でしたか(笑)」

一瞬で日本語の会話に。
日本を離れてから1日しか経っていないのに、日本語の会話がものすごく懐かしく感じた。
会話がかみあってない部分は見逃してください。

セブでキリスト教の宣教師もしているという店員のTさんにパンフレットや諸々の資料を頂き、「現地で初めて会った日本人と会話できたぜ」という達成感に包まれつつタクシーで帰宅した。

あれほど感じていたタクシーへの恐怖は自己陶酔の忙しさで打ち消されてしまっていた。

こんな器の小さな人間がよく一人で海外に行けたなと思う。

屋上から見た景色

無事にホテルに帰る頃には、空から晴れ間がのぞいていた。

何かと煙は高いところが好きとよく言うが、ぼくはこんな天気になると高いところへ登りたくなる。

「はじめてのおでかけ」直後でハイテンションのまま、ホテルの人に「ちょっと屋上に上らせてもらえませんか?」と尋ねてみる。

当然「屋上に上りたい」なんて英語は分からないので
“Excuse me, I want to … えー…… go to … top! top this building!”
(訳:すみません、私はトップに行きたい。この建物の頂点になりたい
と人柱になります的な意味の発言をかましたが、最終的にはボディランゲージで何とか通じた。

ハシゴを上った先にある屋上から見た景色は、実に爽快だった。

南国特有のスコールが去った後の、瑞々しい空気と強く照りつける太陽。そして高温多湿の日本とは違う、カラッと乾いた大気に涼やかな風。

ああ、日本とは違う国に来たんだなと実感した。

空は青々としていて、木々は色鮮やかで、大地と大空が織り成す極彩色のコントラストが非常に美くて。
カメラ持って行けばよかった。

まとめ

以上がフィリピン滞在2日目に起こった全てだった。

ただホテルで朝食を取ってモールに行ってきただけの1日だったが、見るもの触れるものが全て新鮮に感じ、さながら大冒険を終えた勇者のごとき興奮の熱がいつまで経っても冷めやらなかった。

一人で海外旅行をしたことがある方なら、きっとこの感覚が伝わると思う。

些細なことにでも感動してしまう、この初心の気持ちを忘れずに生きていきたい。

買ってきた揚げ物の夕食も終え、時刻は18時。
明らかに量が足りず空腹のままだったが、夜(18時)に出歩くのが怖すぎたのでとっとと寝ることにした。

こんなチキン野郎が異国で1ヶ月過ごせるのかと思いかけたが、深く考えないことにした。