セブ語学留学体験記vol.21 クレイジークレイジーダンス

1ヶ月のセブ語学留学もいよいよ最終週。

今週の金曜日には日本に帰国する。

その金曜日には「卒業式」が開かれるが、その数時間前に「歌コンテスト」が開催されるらしい。

希望する生徒が出場できるとか。

なるほど、みんながんばれ。

と思っていたがなんか出場することになってしまった。

どうしよう。
当時はそう思っていた。

今思い返すと分かる。
これはフィリピン語学留学で最後の、最高の思い出だ。

おわりのはじまり

フィリピン人は歌と踊りが好きである。

なので、いきなり歌コンテストが開かれると聞いても驚きはなかった。

授業ごとに教師たちが

「金曜に歌コンがあるよ!」
「屋上で14時から始まるよ!」
「出るの?」
「何歌うの?」
「衣装は用意した?」
「えっ出ないの?」
「出ようよ!」

と必ずその話題を振ってくるので、何もしないでも詳細がわかった。

先日のクレイジーダンスがあるので「出てもいいかも」と一瞬だけ思ったが、今度は日中、しかも顔見知りが大勢いる場所でのオンステージである。

ムリだ。
あきらめよう。

と早くも観客モードを決め込んでいた。

しかし、つい最近仲良くなった友達のシマザキくんが
「出ましょうよ!」
「最後の思い出になりますよ!」
「むしろもうメンバー登録しておきました!」
と言ってくれやがったので、出場することにした。

仲間と一緒なら、きっと大丈夫。
たぶん。

練習イズ青春

ぼくらのグループは4人。

歌うのは世界的人気5人組グループOne Directionの「Live While We’re Young」。

みんなで歌って盛り上がるにはもってこいの曲だ。

寮に帰ってからはもちろん、授業の休み時間にも4人で集まってひたすら練習する。

金曜が近づくにつれ、フィリピン人講師たちは
「歌コンテスト出るんだよね」
「よし、練習しときなよ!」
と授業の時間を歌の練習にあててくれたりする。

そして隣のブースでも歌の練習が始まったりする。

昼食をとりに外へ行けば、フィリピン人の店員が「あっその曲ぼくも好き!」と他の客のオーダーをほっぽり出して一緒に(フルで)歌ってくれたりする。

そして同じ歌を歌いながら別の店員が伝票を持ってきてくれたりする。

ノリがよさすぎて楽しい。

前日

木曜日。
歌コンテスト前日。

「他の出場者たちは衣装も用意している」という話を聞いたぼくらは、授業終了後に急遽SMモールへと向かった。

「ちょっと待て」
「ワンダイレクションっぽい衣装ってどんなだ?」

考えてもよく分からなかったので、とりあえずフィリピン版ユニクロっぽい店でボーダーのシャツを499ペソにて購入した。
どう見てもマリオです。本当にありがとうございました。

寮の一室に集まって、4人でひたすら歌い踊り狂う。

途中で帰ってきたルームメイトのフジイくん(仮)に頼み込んで加わってもらい5人で爆音を流しながら飛び跳ねて馬鹿騒ぎに興じる。

あっこれ青春ですわ。

ちょうど5人で丁度いいし、明日の本番一緒に出てくれと4人で土下座してフジイくんに懇願したがその様を写メを取られたあげく「ははっお断りです」とさわやかに却下された。

荷造りやウェブチェックインをしていたら夜1時を過ぎていた。

明日はいよいよ本番。
そして帰国日だ。

歌コンテスト本番

セブ語学留学最終日。

9時〜18時の1日8時間コースの平日も今日で終わり。

なのだがフィリピン人の先生たちは、

「授業なんてやってる場合じゃねえ!」
「あなたたちが今やるべきは歌とダンスの練習よ!」

とばかりに率先して授業の時間を歌コンの練習時間にしてくれた。

練習量が絶対的に足りていなかったので、正直とてもありがたかった。

2限などは、ぼくら4人+講師4人が廊下に出てひたすら練習に明け暮れた。
歌のみならず振り付けにも細かい指導が入るなど、先生達の熱の入れようがハンパではなかった。

授業中にこれである。

フィリピンって本当に自由で面白いなって思った。

直前

15:50。
本番1時間前。

スタイリング開始。

えっ何そんなのあるの?

女性講師陣が大挙して押し寄せ、ぼくら一人一人の髪がムースやワックスでセットされ、顔にパウダーぱふられたり保湿・リップライナー・ルージュ・リップグロスで唇トゥルントゥルンになったりした。

完全におもちゃと化してる件。

それにしてもお化粧って時間かかるんですね……。

最後の歌詞合わせとかやってたらあっという間に17時。

エレベーターで屋上に向かう。
いよいよ本番だ。

屋上へ

17時。
ぞくぞくと集まってくる語学留学生の生徒やフィリピン人講師の人々。

思っていたより人が多い。
たぶん50人以上はいる。

やばい死にたい。今すぐ消え去りたい。

「さあいよいよ始まりました!」
「待ちに待った瞬間ですね!」
「授業をサボってきている先生や生徒も今は楽しみましょう!」
「あらあら、ボスに怒られるわよ?」
「そのボスはあそこで観戦してるよ」
「HAHAHA」

みたいな海外のテレビ番組で見るような超テンション高い司会の男女2人によるつつがない進行が今は何よりも頼もしい。

地球上で三本の指に入るレベルで盛り上げ上手なフィリピンの人々に煽られ盛り上げられ、出場する生徒の人たちも満面の笑みでパフォーマンスを繰り広げていく。

筋肉全身搭載でゴツい2人組が「Call Me Maybe」を完璧に歌って爆笑をかっさらっていったり、可愛い子と綺麗な美人が9人くらいグループになってセクシーなドレスでオンステージして観客男性陣の声援が通常の8倍くらいになったり、いろいろあって面白かった。

けど緊張しすぎて正直よく覚えていない。

気づいたら一瞬で9番目のぼくらの出番になっていた。

3秒前

「マジか……」
「ほんとに行くのかこれ」
「人多いなwww」
「あー何で俺生きてるんだろ」
「たぎる」
「よっしゃ行こうぜ!!」

口々に思いを発しつつ、ぼくらはステージへと上がる。

「We are, We Are “No Directiooooooooooon”!!!!!」

リーダー格のシマザキくんがマイクを手に叫ぶ。

爆上げする会場のボルテージ。
観客をノせるこの手腕。
リア充、心強い。

「ぼくらは本当は5人なんだけど……一人足りないな」

一呼吸置くシマザキくん。

「C’mooon Mr.Fujiiiiiiii!!!!!」

張り裂けそうな大音量でスピーカーが唸る。

観客席の最後方から拳が突き上がる。

「通してくれ!」

叫ぶ声が聞こえる。

人波をかきわけてフジイくんが姿を現した。

「こんな土壇場で呼びやがって本当にww」

破顔一笑。

静けさを帯び始める会場。

腕組みをして5人とも後ろを向く。

さあ、音楽をかけてくれ!

クレイジー・クレイジー

Let’s go crazy, crazy, crazy till we see the sun
さあ、朝が来るまでクレイジーに騒ごう

I know we only met but let’s pretend it’s love
出会ったばかりだけど恋人みたいに振舞おう

And never, never, never stop for anyone
誰もぼくらを止められない

Tonight let’s get some and live while we’re young
今夜だけはハジけよう、今しかないこの時間を楽しもう

And live while we’re young
若い時しかできない、この時間を楽しもう

大勢のオーディエンス。

マイクを代わる代わる握り、力の限り大声でシャウトする。

歌詞を追うだけでいっぱいいっぱい。

振り付けなんて開始3秒で吹っ飛んだ。

とにかく全力で歌って飛び跳ねるだけ。

でも、右も左も似たようなものだ。

ただ、笑顔。
見渡す限りの笑顔。

盛り上げてくれる観客。
指笛が聞こえる。
いっしょの振り付けで踊ってくれてる人がいる。

楽しい。
ひたすら楽しい。

セブに来るまで、こんなことできるなんて思ってなかった。

最高に幸せだ。

生きててよかった。

ここに来て、よかった。

ありがとう。

卒業式

歌コンテストが想定より大幅に伸びたので、スピーチは大幅に巻けとの指令が入る。
3秒くらいで切り上げてさっくり卒業証書をもらう。

歌コンテストに比べてこのあっさり感。
最後までフィリピンはフィリピンだった。

さよならセブ島

学校を去って寮へと帰る。

シャワーを浴びてパッキングをすませ、21時前にルームメイトや友人達と別れをかわし、キャリーバッグをコロコロさせ寮を後にする。

「sist8さーん!」

寮の前で手を振ってくれる友人たち。

いろいろあったなー。

数え切れないほどの忘れられない思い出を手に、マクタン空港への道を急いだ。

さよなら、セブ島。