セブ語学留学体験記vol.9 ダイビングライセンス取得に挑戦しよう!(前編)

青い空、白い雲、照りつける太陽。
南国フィリピンに来てやるべきコトとは何だろう。

英語の勉強?
否。ダイビングである。

セブ語学留学に行ったら、何よりもまずダイビングライセンスを取るべきなのだ!

学校の休日に!

スキューバダイビングするならフィリピンで

ダイバーに人気の国フィリピン

フィリピンは世界屈指のダイビングスポットを有する国である。

特にセブに存在するマクタン島・モアルボアル・ボホールなどは圧倒的な水の透明度を誇り、温暖な気候・開放的な雰囲気・安価なリゾート地帯という好条件も重なり、世界中からダイバーが押し寄せる一大ダイビングエリアとなっている。

オープン・ウォーター・ダイバー・ライセンス

さて、本格的にダイビングを楽しむためにはライセンス(Cカード)が必要になる。

ライセンスにはいくつかのレベルが存在するが、多くの初心者はまず「オープン・ウォーター・ダイバー・ライセンス」の取得を目指す。

オープン・ウォーターのライセンスを取得すると、インストラクター無しでダイビングが可能になり、機材の購入やレンタルサービスを受けることが出来るようになる。
ダイバーになるためにはオープン・ウォーターのライセンスが必須なのである。

日本だと高いが、フィリピンだとすごく安い

ところでこのライセンス、日本で取得しようとすると費用が異様に高くなる
時期にもよるが、たとえば近隣に手頃な海が無い東京在住の人では、講習費・遠征費・宿泊費を含めて10万円近くが必要になる。

しかし、海外でライセンス講習を受けるとその値段は圧倒的に低くなる。
ぼくがセブで申し込んだところは全費用込みで14,000ペソ。なんと3万円である。

また、日本だと通常4日間、早くとも3日間かかるライセンス講習だが、セブなら2日間で終えることができる。

さらに、日本では高価なダイビング料金(機材レンタル代・インストラクター代等)もセブならば数分の一の値段になる。
日本で1回潜る値段で、セブなら複数回ダイビングができてしまう。

これはもう、セブに行ったらダイビングをやるしかない。
ライセンスを取得して、週末は潜りまくるしかない。
ダイビング漫画『あまんちゅ!』に影響されまくっていたぼくは渡航前からずっとそう考えていた。

講習前日の授業中は「英語なんか勉強してる場合じゃねえ」とワクワクしすぎて挙動不審を抑えられなかった。

早起きしてタクシーで出かけよう

語学留学の授業を受けてはじめての土日がきた。

一般的に、語学学校の寮では休日の方が早起きになる。
皆、土曜の朝から遠出したり観光したりするためだ。
もちろんぼくも早起きして用意を整えた。

寮の前まで来てくれた送迎タクシーに乗り込む。
車は走り出した。

すでに乗車していた日本人の人といろいろ話してみる。

大学1年生のサトウくん(仮名)と名乗る彼は、ぼくと同じくマンツーマン語学留学生であり、これまたぼくと同じく1か月間の滞在だという。

セブ語学留学で一番多いのは「夏休みを利用して来る大学生」というデータがあるので、同じような境遇の大学生に偶然出会うのも頷けるというものである。

車はセブシティを抜け、大きな橋を渡りマクタン島へと向かう。

「ダイビングが終わったら射撃場に行かないか」「日本人好みの若くて可愛い女の子が沢山いる店紹介するよ」とやたらと勧誘して来るタクシードライバーを「今日は忙しいから」と言って流そうとしたら「じゃあ明日は行けるんだね!」と商魂たくましい様を見せられ「明日はどうやって忙しくなろう」と考え込んでいるうちに目的地に着いた。

個人経営のダイビングセンター。
日本人内でも(そこそこ)評判の高いダイビング店である。

穏やかな南国ライフ

店選びのポイント

セブには多数のダイビング店が存在するが、ライセンス取得コースを考えている人が店選びの際に重視すべきポイントは2つ。

  1. 日本語が堪能なスタッフがいる
  2. 日本人客の評判が高い

アクアワールド・ダイビングセンターはどちらの条件も(ある程度)満たしていた。
さらに店がオーナーの持ち家ということもあり、オープン・ウォーター・ライセンス取得コース代が他店に比べ1万円も安い。
(予算的に)ここしかないと思った。
費用は大事。

オープン・ウォーター講習

さっそくPADIオープン・ウォーター・ダイバー(OWD)講習が始まった。

日本語がペラペラなインストラクターに案内されたのは、事務所の横で建築中の建物。

テレビとビデオデッキと机と椅子がある空間で、まずは学科としてひたすら講習ビデオを見るべしとのこと。

「1巻が終わったら2巻に入れ替えてね」

と、ビデオの入れ替え方をレクチャーされる。

「じゃあぼくちょっと出かけてくるから」

そう言ってインストラクターは何処かへ去った。

講習開始早々一人ぼっちになったが、寂しさに沈んでいる場合ではない。
ビデオデッキいじるのなんて子供時代以来だな、あぁもう最近生まれた子ってビデオという存在を知らないで生きていくんだよなとか思いながら講習ビデオを見始めた。

なおビデオの内容は当然日本語である。

ダイビングでは気をつけないと死にます。
機材の使い方はこうです。
減圧症は大変です。
いったん潜ったら24時間は飛行機に乗らないようにしましょう……。

見れば見るほどダイビングとは危険なスポーツである。
大丈夫だろうか。
ライセンス取得の講習中に死んだらどうしよう。

先ほどファンダイブを始めるという日本人客のお二人に「ダイビングはやはり危険なんですか」とそれとなく聞いてみたところ、
「ああ大丈夫大丈夫、俺なんかダイビングやるの10年ぶりで何にも覚えてないけど大丈夫!
という凄まじく男らしいアドバイスを頂いたので、余計に心配になっていたところである。

とにかく語学留学中に水中で死んだら浮かばれない。
目を皿にして「安全なダイビング法」を学んでいった。

南国には、昼寝が許される雰囲気がある

しかし、眠い

何しろビデオは合計3時間である。

壁がなく開放的な風が吹き抜ける空間。
よく照る太陽と、青い空に白い雲。

軽やかに揺れる丈の高い緑。
時々通りを走り抜ける車の音。

その後に訪れる穏やかな静寂。

実にのどかである。
時間がゆっくり流れていく。

青信号を待ちきれず飛び出すのが常識であるような気忙しい都会で育ったぼくにとって、このゆるやかな時の流れを顕現させる「田舎」的情景は憧憬の対象ですらあった。

とても心地よい空気。

ゆえに眠い。
ただでさえ早起きなのだ。
こんなのどかな朝10時に寝るなという方が無理な話である。

だが、うっかり寝て見落とした箇所が命に関わるとも限らない。

何とか3時間の教材ビデオを見終えた。

丁度その頃、インストラクターが帰ってきた。
昼食のハンバーガー&ポテト&コーラを抱えている。
すわマクドナルドかと思ったが、「Jollibee」(ジョリビー)というフィリピンの独自バーガーチェーン店のものであった。

セブ滞在中、何度もお世話になることになるJollibeeの昼食を終えた後は、いよいよお待ちかねの海洋実習である。

機材の重さは30kg

高難易度エントリー

英語交じりで酸素タンク・BCD・レギュレーターの座学を受ける。
組み立てを実際にやってみた後、スーツに着替えたらワゴンに乗り込んで出発である。

10分ほどでTONNGA(トンガ)と呼ばれるビーチに到着した。

さっそくその場で酸素タンクを背負う。

重っっっ。

な、なんだこの重さ。
ありえない程タンクが重い。
こんなものを背負いながら進むのか。
一度転ぶと下手したら起き上がれないレベルである。

しかしタンクを背負うのは船で指定ポイントに着いてからではなかっただろうか。
ダイビングにおいて海中にエントリー(※海に入ること)する方法はいくつかあり、その中でも簡単なのが船の上から海中めがけて落ちる「ジャイアントストライド・エントリー」「シッティング・バックロール・エントリー」である。

辺りを見回すが、そもそも船がない。
どうやって海に入るんですかとインストラクターに聞くと、「このまま歩いて海の中に入るんだよ」との返答。

まさかのサーフエントリーである。
重いタンクを背負いつつ岸から海に入り、不安定な足場を踏破し、胸まで浸かる水深で波に揺られつつフィン(足に装着する大きい水かき)を付けねばならない、比較的難易度の高いエントリー法だ。

ある程度の水深まで進んでからフィンを付けた方がいい理由は、浮力でタンクの重量が軽減されフィンが装着しやすくなるからであり、フィンを付けた状態で海を”歩く”のは埒外に難易度が高いため「後は泳いでいける」という位置でフィンを装着した方が効率的だから、である。

生まれたての子羊のように

タンクの重さにフラフラしながら浜に下り、少しずつ波打ち際に進んでいく。
地元の子供たちだろうか、10人ほどが楽しげに泳いでいる。
こんな超重量タンクなんか投げ捨てて一緒に子供たちと泳ぎたくなったが、高い金払ったんだしと打算的思考が働き何とか思いとどまった。

海底はゴツゴツとした岩が露出しており、かなり凸凹している。
壮絶に歩きづらい。

重いタンクを背負い、不安定な足場を進んでいく。
時折大きい波が来てバランスを崩し、盛大にすっ転ぶ。地味に痛い。
何とかそこそこの深さまで辿り着き、何度も水を飲みかけてインストラクターの肩につかまり泣きながら片足ずつフィンを装着する。

子供たちの楽しげな嬌声が耳朶を打つ。
もう帰ろうかと思った。

ちなみにマクタン島トンゴビーチの海はありえないほど透き通っていて非常に美しかった。

が、この時はそれどころじゃなかった。

ようやくフィンの装着が終わった。

足のつく浅瀬で、ダイビング前最後の講習が始まる。

大海原とチキン野郎

背水の英語

胸まで浸かる水深だと、ときおり高い波が来て口元に水が来る。
そんな状態だというのに、インストラクターは「日本語だとまどろっこしいから英語でいいよね」と言い出し英語でレクチャーを始めた。

いやいやいやジャパニーズプリーズ!と必死に叫びつつ、英語と日本語半々で解説を進めるインストラクター。
さすがに講習ビデオで何度も見たことなので、英語でも言っていることは何となく分かる
しかしちょいちょい英語が出てくるので、聞き取れなかった個所は聞き取れるまで何度でも聞き返す。
何しろ生死がかかっているのである。
図らずも英語の勉強になっていた。

頭ごと水中に潜りながら、マスクに入った水を抜く「マスククリア」、空気供給口を咥えなおした時の適切な処置「レギュレータークリア」を練習していく。
なかなか上手くいかない。
しかし足がつく浅瀬で練習できる最後の機会である。
何度も繰り返し、ようやく満足いく出来に仕上がった。

正直言うと、浅瀬講習中は壮絶な恐怖心に包まれていた。
もし重要な英語を聞きのがしていたら?
もし何か手違いがあったら?
やはり日本で安心安全な講習を受けるべきだったのでは。今からでも遅くない、帰るべきなのでは。
もし何か上手くいかなかったら、即座に中止してライセンス取得は諦めよう。

と思っていたのだが、必要なことは(何度も聞き直して)全て聞き取れてしまい、浅瀬での実習もすべて上手く行ってしまった。

もうこうなったらやるしかない。

ダイブイン・ブルーワールド

セカンドステージ(※空気供給口)を口にくわえ、BCD(※浮力調整装置)に空気を入れる。
これで何もせずとも浮く状態になった。

しばらく沖に向かって泳ぎ、潜行ポイントに到達する。

インストラクターと共に、浜の二点間地点や時間を確認。
現在地と時刻をバディ同士で確かめ合い、全ての準備が整った。

「OK?」
「OK」

潜行開始のハンドサイン。
BCDの空気を抜く。
浮力が抜け、すっと体が沈んでいく。

波間の上で揺れていた青い海と空が消えていく。

口から空気を吸い込む。

コシュウ、という音と共に酸素が供給される。

頭まで完全に水中に没した。

ふと下を見る。

海底は、遥か底にあった。